RHYTHMOS|鹿児島県鹿児島市

リノベーションに着手する前に

RHYTHMOSのオーナーでありデザイナーの飯伏正一郎さん(以下:飯伏さん)とは鹿児島で毎年開催されるクラフトフェアをきっかけに話をするようになった。リノベーションの相談をもらった際、飯伏さんの頭の中にはすでに「表現したい世界」と「生命をマテリアルとして扱う仕事への強い信念」があって、設計を通して想いを形にする”サポーター”になりたいと思ったことを鮮明に覚えている。

完成に至るまで飯伏さんとは長い時間をかけて会話(休憩もありつつ)を交わした。会話の中には、普段製作している革製品の「手縫いだけどクラフト感が出過ぎないようにしている」「物の周辺には体温を感じたい」といった理念や、内装のディテールに関しては「エッジがききすぎてないフォルムが心地よい」「可能な限り自分達で手を入れたい」といったキーワードを初期のメモに残している。

完成した今、ファーストプランの図面やパースと見比べると「結構変わったな」という思い出と同時に会話のキーワードが空間とディテールに落とし込めたと思っている。


全体を包む白い壁

メインの壁を白とすることは飯伏さんがイメージしていた「からっとした乾いた空気感」によるものだ。既存のRC梁と柱を隠すためにつくったアーチ型の門も長細い空間のゾーニングに前後のメリハリがでた。梁幅が太かったことによる門の厚みも空間に重厚感を与えたくれたと思う。

仕上げ材を左官壁にするか迷ったが、「可能な限り自分で手を入れたい」ことと今後のイベントを行った際の補修に配慮して手に入りやすい水性のペンキ塗料とした。当初、左官で表現する予定だった出隅の面取りはすべて飯伏夫婦によるもの。かなりの労力と時間を費やして作ったアール面の面取りによって陰影が柔らかく切り替わり、空間に優しさと愛着が増したそうだ。


レザークラフトと床材

床材は当初から何で仕上げるか、タイル、着色モルタル、コンクリート小叩きなどさまざまな素材を検討した。最終的に敷き込みのウールカーペットに決定するのだが、提案したきっかけが幾つかある。

素材のウールは、レザークラフトの牛革と同様に生き物から生まれた素材であり、そこには長く大切に使うという共通の価値観がある。また飯伏さんが元々バーテンダーをしていたルーツや、老舗の上質なテーラーのような居心地を感じれるのがカーペットの特徴だ。

機能面においても床のクッション性が上がり、丁寧に縫製された製品を誤って落としてもらっても気になりにくくなった。さらにオーディオや話し声の音の共鳴もコンクリートの頃と比べ緩和できたと思う。


壁面に埋め込まれた棚

アーチ内の棚板の厚みは30ミリとし、南米の建築で見られる無骨なイメージとしたかったので、切りっぱなしのような印象とした。棚板に選定したブラックチェリーは牛革同様に経年劣化が楽しめる素材だ。建物奥にあるウォールシェルフはRHYTHMOS定番のジップがモチーフとなっている。

また、牛が育った足元にはかならず土壌があるので、壁面の背景は土色であることが最も自然であると考えた。


バーのようなアーチ型カウンター

カウンター什器は全て脚付きとすることで、建築ではなく置き家具の印象を出した。床から浮かすことで、空間に伸びが出たと思う。

緩くラウンドしたアーチ型カウンターは飯伏さんのルーツであるバーテンダーの雰囲気と、既存のスピーカーをすっきり納めるために考えた。カウンター内に納めたスピーカーの音質を確保するために、透過性の良い籐編み、地板はベタ芯、キャビネットは背板なしとした。カウンター上には飯伏さんの知人が製作した吹きガラスのペンダントライトが3色並ぶ。


3mの長いバックカウンターにいろいろ詰め込んだ

オーディオ機器をすっきり納めたいと要望にあったこと、飯伏さんがコーヒーをこよなく愛しよく「カフェインが切れた」と言っているのを思い出した。奥行きの狭いカウンターに磁器製のバー用シンク、LPプレーヤーとアンプを斜めになった壁に納め切った。これで大好きなコーヒーと音楽が気持ちよく楽しめる。ディテールに関してはアーチ型カウンター同様に側板に対して天地板勝ちで納めることで水平ラインを強調した伸びやかなデザインとした。アーチ型カウンターの天板を納める上で生まれた側板のかまぼこ型の小口加工は白壁のアール面取りとうまくリンクできたと思う。

背景の壁は壁面棚同様土色だが、赤みを強くし弁柄(ベンガラ)にも見える色とした。弁柄壁は薩摩に伝わる魔除け一つとも言われている。


白い鉄骨階段

階段は白くすることで主張しないよう心がけた。踊り場を設け安全性の配慮と半円上にすることで全体のアーチと親和性を持たせた。踏み板は飯伏さんが以前持っていたウォルナットを再加工したもの。今ここまで色の濃い材はなかなか手に入りにくい。ちなみに鉄骨階段の上階にはストックルームがある。


ファーストコンタクトの玄関ドア

お店に入る上で最初に触るドアハンドル。ありがちかもしれないが、革以外考えれなかった。革の手触り、経年変化の美しさをプレゼンテーションする一番の場所だからだ。楕円で縦長の形状は子ども触れやすい。ガラスのアーチは内部と連続性を感じれるよう今回オリジナルで製作した。


最後に

無事に完成できたのは職人さん達の飯伏さんに対する想いと感性、そしてなにより飯伏さんの熱量とセンスによる賜物だ。今回リノベーションプロジェクトに設計でありサポーターとして関われたことにとても満足している。

RHYTHMOS
鹿児島県鹿児島市/店舗兼工房/2022年/鉄筋コンクリート4階建の一部/改修面積約40㎡/UCHINO WORKS/anagura/HOTTA CARPET/photo by Hiroki Isohata
#renovation

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