ISO Building|鹿児島県鹿児島市
建物について
この建物は、かつて鍼灸師会館以下:集会所)として使われていた3階建てビルを、オフィス、スタジオ、そしてレジデンスという複数の用途を持つ空間にコンバージョンとリノベーションを行いました。建築は比較的新しく、1990年に完成しています。元々集会所として使用されていたため、状態は良好で、フロントサッシのデザインと建築のスペースがクライアントの要望と偶然にもマッチし、購入に至りました。
1階オフィス
フォトグラファーのクライアントにとって、ビルに車をビルトインできることは高価な機材を雨の日でも簡単に運び出せるため非常に便利です。また、灰の降る街に住む県民にとっても喜ばしいポイントです。オフィスはビルトインの車庫の奥に配置されており、お気に入りのビンテージカーを眺めながら作業ができる環境です。
2階スタジオ
5m×15mの長いスタジオで、天井をより高く確保するために既存の天井を撤去し、鉄骨を露出させました。元々集会所だったため窓が多く、程よい明るさが特徴です。クライアントの要望に応じて壁と天井を白く塗装し、より光が満ちる空間に仕上げました。写真撮影だけでなく、展示会やトークイベントも行えるキャパシティを持っています。
3階レジデンス
ご夫婦と猫1匹が暮らす空間で、ご主人とは20年の付き合いです。空間においては大部分を任せてもらいました。この1ルームの集会所をプライベートとパブリックの境界を明確にするため、大きなグレーの壁で空間を区切っています。これにより、友人をリビングダイニングに招く際も気兼ねなく過ごせるようになっています。またグレーの壁はゾーニングだけでなく、窓の多い集会所空間に静かな壁面を設け、お気に入りのアートやイラストを楽しむ場所としても活用できます。
玄関から奥のリビングへと続く長い廊下は、TAJIKENの田島さんが手がけています。2.5mごとに朝鮮張のように入るボーダーが歩くたびにリズムが感じられるデザインです。
フォトグラファーとして世界中を行き来するクライアント。その行き先は、赤く乾いた土や高温多湿で人とエネルギーが溢れかえった街が多い。そこでレジデンスの内装は、多様な文化を受け入れてくれる無国籍な空気感を作りたいと思いました。仕上げ材に選定したのは北欧にみられる白木のイメージではなく、アフリカや東南アジアの赤道に近い国の木材を多く使用しています。赤く深い色調の木材は、旅先で集めた写真や調度品、器に関しては白磁の器から力強い民藝陶器まで受け入れてくれそうです。
レジデンスではダイニングが特に目を引きます。3.7mの大きなrewoodのテーブルは、仕事仲間や友人との飲み会などに最適です。また、夫婦2人で食事をする際にも使い勝手が良いようキッチンの後ろに配置されています。テーブルは「ボセ」という材種で、フランス語で「瘤(こぶ)」を意味し、角度によって波打つような立体感があります。テーブルの脚は、RHYTHMOSの飯伏さんが鉄を革で巻き、足触りの良さを追求しました。
キッチンはanaguraの萩原さんがディテールの段階から関わり、特に吊り戸棚をリズムよく納めるアイディアに助けられました。テーブル床と合わせた家具の材料選びも流石の仕上がりです。
トイレのタイルはONE KILNの城戸さんによるもので、グリーン、グレー、ピンクと色彩が緩やかに変化し、見ていて飽きさせません。鏡はreimiの西田さんが手がけています。
レジデンスには、もう一人の家族として猫もいます。猫が部屋を自由に行き来できるよう、建具のアンダーカットをトンネル型に工夫しました。引越し後無事に通ってもらえてクライアント一同安心しています。
風呂と洗面所はタイルで一体の空間となっており、南側に大きく開いた窓からはビルの一部であることを忘れさせるような快適さがあります。